交通事故 脳脊髄液減少症が認められた事例 №3

交通事故 脳脊髄液減少症が認められた事例 №3

 最近大阪高裁で脳脊髄液減少症が認められた判決が出た(H23.7.22、判時2132号46頁)。非常に重要な判例なので紹介したい。被害者は助手席に同乗して追突事故にあったのち、頭痛やふらつきが治らないため病院で診断を受けたところ外傷性脳脊髄液減少症と診断された。


 この事件では脳脊髄液減少症に関する国際頭痛学会の基準(2004年)、神経外傷学会の基準(2005年)、脳脊髄液減少症研究会ガイドライン(2007年)が問題となり、神経外傷学会基準をもとに判決された。この基準によれば、①起立性の頭痛または②体位の変化ともなう症状の増悪、変化が必要となる。


 この点、判決文は次のように続く。
 「各診療機関のカルテに記載されている控訴人の症状を見る限りは、控訴人には起立性の頭痛は身と得られていないし、もう一つの前提基準(学会基準の要件)とされている「体位による症状の変化」があったのか否か判然としないのである。」
 
 このように、本件では神経外傷学会の基準すら正確に当てはめることはできない事例だった。原審は被害者が敗訴している。


 「しかし」と控訴審判決文は続く。被害者は「かなり早い段階から、順位を変換したり、頸部を大きく動かしたりした際に、浮遊感やめまい、吐き気等の平衡感覚異常を訴えていたのであるから、これが「体位による症状変化」に該当する可能性は高い。」とした。


 つまり、裁判官は患者の治療歴を詳細に検討して、判決文で長期にわたって患者が苦しみ続け、頑迷な症状に悩まされ続けてきた経過を認定した上で、「控訴人は、神経外傷学会基準によっても、脳脊髄液減少症と診断された可能性あるといえる。」と判断した。


 交通事故訴訟で後遺障害を争う事例では診断基準に従った決定的な検査結果がないことが多い。例えば、レントゲン写真では十分な輝度変化が見られないというようた類だ。この事例も同様な悩みを抱えていたものの、患者の現実に生じた症状を時系列に従って丹念に洗い出すことによってそれを補っているのだ。


 もちろん、通常の訴訟でこれだけ勝訴を勝ち取ることは難しい。そうは言っても何か決定的な判断要素が必要となる。本件で決定的な決めてとなったのはブラッドパッチ療法が有効であった点にある。「これにより、控訴人の従前の症状が80%以上も改善したことがきわめて重要である。」


  もっとも、本件は平成15年7月3日の事故だが、本件ではブラッドパッチ治療が実施されたのは平成19年5月21日ことだ。実に4年かけて原告について真実が追究され、平成23年になってようやく裁判所が被害を交通事故による脳脊髄液減少症と認めた。私も何度もこうした長期にわたる事件を担当した。判決書には表れていないが、よい医師にめぐりあうまでに患者がどれほどの苦労があるか知っている。患者はよく分かっていない弁護士に一から説明し、弁護士も大変苦労しながら訴訟を進めていくのである。


 ところで、本件は平成15年7月3日の事故だが、認定された事実によるとカルテ上、めまい等の症状が現れたのは同年10月6日のことだ。訴訟上カルテの証拠価値は高い。カルテに3ヶ月後という表示があると、3ヶ月経って初めてめまいが出たなどと認定されてしまうことがある。しかし、「めまい」という症状は本人にもよく分からないことある。また、脳脊髄液減少症に問題意識のない医師が初診時の評価でめまいに注目したかは分からない。この点、カルテの記載をどのように攻めていくかは訴訟上重要な課題だ。これは結局、本件事例のように丹念に経過を洗い出し、当初から浮遊感、めまいなどがあったという患者の証言の信用性を高めるほかはない。


(つづく)
 

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