交通事故 身体表現性疼痛
交通事故 身体表現性疼痛
損保の弁護士がしばしば利用することばに身体表現性疼痛という言葉がある。
いま担当している事件では損保側はこんな風に主張している。
「加害者のある交通事故による傷害は,たとえ軽微であるにもかかわらず長期化し,問題となることが往々にしてあり得る。その原因は交通事故を取り巻く多くの複雑な因子が関係していると考えられる。長期化因子としては患者側では患者の精神・心理的背景,社会・仮定的な背景がある」
「原告は・・・不定愁訴を訴え,長期間通院しているが,他覚的,客観的所見はなく,自己を契機にした心因的愁訴であり,医学的な検査で症状の説明ができない身体表現性疼痛であって,心理的要素が症状の発症,重篤度,持続期間に大きく影響しているものである。」
この事件ではそもそも事故が軽微であるという前提に立っているがあやまりである。心理的要素があるとしているがその根拠もない。不定愁訴と言っているが実際には肩の痛み,脱力,手のしびれと一貫した疼痛を訴えている。医学的検査と言っているが正確には整形外科医が実施したいくつかの検査という意味以上は無い。
このようにただ否定するだけのことをもったいぶって言っている訳ではあるが,このようなことが許されるのは立証責任が原告側にあるからだ。否定されれば原告は事故と傷害との医学的な説明をお行わなければならない。この事例では胸郭出口症候群が問題になっており,医学的な立証を勧めている。
それにしても,身体表現性疼痛は交通事故が患者に心理的な大きなダメージをもたらして生じる心の病を普通言うが,損保側は仮病の代名詞のように利用している。心の病であってお被害が残っていれば責任を負うべきだと思う。実際,事故によるうつ病や,自殺は賠償の射程範囲として判例は確立している。