交通事故 被告医師意見書がMRI画像を理由に高次脳機能障害を否定した事例

交通事故 被告医師意見書がMRI画像を理由に高次脳機能障害を否定した事例



  被告医師意見書では「脳に器質的損傷があったかどうかは,画像所見が必要です。」とし,MRI画像を必須であるかのように述べている。しかし,MRI画像の所見は次に述べるように必須なものではない。なお,本件では上記のように○○などいくつかの客観的な所見が存在する。


  高次脳機能障害とは脳損傷に起因する認知障害全般を指す。それは交通事故などにより頭部に強い物理的な衝撃が生じた場合,脳に対しても強い衝撃を受けることになる。特にいわゆるむち打ち症などの場合,頭部に強い回転力が加わり,その際に神経繊維の脱髄,崩壊,神経細胞の活動低下,壊死などが生じる。こうした脳の傷害は,硬膜下出血や脳出血などに伴って生じるが,それを伴わない,いわゆるびまん性軸索損傷といわれているものも存在する。この画像上には必ずしも明瞭に現れない事例については外傷による高次脳機能障害との診断が難しいため,症状がありながら診断がされない,見落とされるというような例は多い。本件では点状血痕像があるが,これは脳に強い回転力が加わる際に脳内の細部の血管が損傷するために生じる出血の痕である。


  厚生労働省高次脳機能障害支援普及事業として,「高次脳機能障害者支援の手引き」を発行しているが,そのなかで高次脳機能障害の診断基準を示している。それによると,「MRI で異常が認められなくても高次脳機能障害を呈することがある。」とし,画像所見と診断の関係については「MRI,CT,脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認 されているか,あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。」として,画像で異常がないことから直ちに高次脳機能障害を否定するものではないという立場に立っている。


  ところで,MRI画像については,一般に急性期,亜急性期における画像が有用であるとされている。「④ 脳機能の客観的把握」ではMRI画像の有用性について「ただし,これらの画像も急性期から亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である」としている。


 本件でMRI画像は事故から2年7ヶ月を経た平成○年○月○日の○○病院で撮影されたものがあるが,そのような画像では,画像上所見がとれないからといって直ちに否定する材料にはならない。


  初期のMRI検査は整形外科医の問題意識によって実施されなかったりされたりする。特に脳の傷害について専門外の整形外科医が実施するとは限らない。そのような原告のコントロールできない事情によって原告が不利益に取り扱われるべきではない。


  被告医師意見書はMRI画像所見がないことから安易に高次脳機能障害を否定する。しかし,これは医学的態度とは言えない。
  3頁には「脳に器質的損傷があったかどうかは,画像所見が必要です。」とし,高次脳機能障害と判断するためにはあたかもMRIなどの画像上に外傷性変化が認められることが必要であるかのように記載されている。もし,仮に高次脳機能障害と判断するためには画像上の所見が必須であるという考えであれば,明らかにびまん性軸索損傷が存在することと矛盾し,医学的な意見とはいえない。


  また,事故後2年7ヶ月を経て撮影されたMRI画像で原告の脳に外傷性の変化が存在しなかったことをもって,高次脳機能障害の存在を積極的に否定するのであれば,事故後長期を経た画像では必ずしも有意な所見が得られないとされているのであるから,それも医学的な意見とはいいがたい。


  要するにMRI画像所見をとれないというのはMRI画像では判断できないという以上の意味はない。被告医師意見書はMRI画像の証拠価値について故意に過大評価し,そこで所見が得られない結果,あたかも脳外傷が存在しないかのように表現しているのである。

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